北京オリンピックの代表選考がかかった今年の全日本選手権で
石井慧が優勝し、代表に決定したとき。
マスコミは一斉に彼を叩いた。
ある意味"汚い柔道"だったからである。
形は悪くても、がむしゃらにポイントを取りに行き、
きちんと駆け引きをして、逃げ切るような戦術。
これは日本伝統の一本を取りに行く"柔道"ではないと、叩いたものだ。
しかし、北京オリンピックの後で、
マスコミが手のひらを返したのは誰もが知るところ。
バタバタと敗れる男子柔道日本代表を救ったヒーローとして、
今度は石井慧を称えた。
彼は言い放つ。
「一本を狙う日本伝統の柔道なんて、今は世界では通用しない。
もう国際的な"JUDO"の時代が来ているんだ」と。
一方。
昨年3つのGⅠを勝ったダイワスカーレットだが、
評価は必ずしも高くなかった。
同じGⅠ3勝のアドマイヤムーンにダブルスコアをつけられて年度代表馬には選ばれなかった。
先行してすんなり押し切る勝ち方から、
ダイワスカーレットの勝つレースは何か面白みがない
という声もあって。
後方から強烈な末脚を繰り出す
ウオッカやベッラレイアのほうが多くのファンの心を掴んでいたように思う。
しかし、実績を残しているのは、圧倒的に
ダイワスカーレットの方だ。
10戦7勝。連対率100%。
ウオッカには3勝1敗。
ウオッカやディープスカイが綺麗でかっこいい差し切り勝ち=一本勝ちを狙っているのを尻目に、
とにかく勝つために、一番勝てる可能性が高い先行押切の競馬で、貪欲に勝ちに行く、
ある意味"汚い競馬"
それがダイワスカーレット。
1頭だけ、本当のガチンコ勝負をする馬である。
「その綺麗な勝ち方というのは本当に大事なものなのか?
そのままでいいのか?
それで勝てるものなら勝ってみろ」
"石井慧とダイワスカーレット"
この1人と1頭のヒールがそんな強いメッセージを発しているように感じる。
「強い馬が勝つのではなく、
勝った馬が強いのだ」
という格言を思い出す。