「アローム、エルレイナ、ライブハウス、プリンセスメール、マルカアイリス、、、」
1993年桜花賞の発送前、実況アナウンサーが次々と馬名を挙げていった。それらは出走馬ではない。1ベガが制することになるそのレースに辿り着けなかった、心ならずも故障や体調不良により出走叶わなかった馬たちの名前だった。
どんな物事も、それに夢中になりのめり込んでいった時期のことを、人は美化してしまう傾向にあるという。筆者も1990年代初頭に競馬にはまったせいか、当時の競馬は輝いていて、レース実況も味のあるものが多かったように思えてしまっている。
この実況はつまり、クラシックレースには出走できること自体が幸運であるかを伝えることで、これから行われる晴れの競走がどれだけの価値があるものなのかを際立たせている。
私も日本ダービーが迫った今だからこそ、出走叶わなかった馬たちのことこそ語りたい。
ブレスジャーニー
この馬はもしも出走叶っていたら、最もドラマチックな物語を背負って走っていただろう。悲劇的な末路を辿った競優牧場の忘れ形見として、セリ価格270万円の低評価を覆すチャレンジャーとして、柴田善臣悲願のダービー制覇のパートナーとして、多くの競馬ファンが夢を重ねることができただろう。
昨年この馬は最有力視された朝日杯FSを回避してまで、クラシックに備えていた。一度は入厩して弥生賞に、それでもダメならスプリングステークスに向けて調整していた。が、骨折で夢を諦めざるをえなかった。
ここで人気になっているスワーヴリチャードもダンビュライトも、この馬が東京で負かした馬たちであることを忘れないでいたい。
他にも、牝馬のファンディーナが牡馬クラシックに果敢に挑戦したが、壁は厚く、出走を見送らざるをえなかった。エアウィンザーやムーヴワールド、グローブシアターといった馬たちは、半年前にはダービーの有力候補とされていたが、力及ばず出走できなかった。
ここに辿り着けなかった馬たちの分まで、18頭には力を出し切ってほしいし、私たちは18頭を讃えて見守りたい。