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「ダイワスカーレットを逃げ切らせていいのか?」問題の続きです。


前回は、
強い馬をいかに潰して勝つかという、勝負の厳しさについて、
2001年の産経大阪杯を例にあげて解説している部分を、
後藤浩輝騎手の著書(「意外に大変」)から引用させてもらいました。


ご存知のとおり、
後藤浩輝騎手は天皇賞(秋)には、エアシェイディで参戦します。
産経大阪杯のときと比べて少し違うのは、
アドマイヤボスとエアシェイディとでは、エアシェイディのほうが人気薄だということですね。
産経大阪杯のときほど、後藤自身が自分で潰しに行かなきゃいけないという義務感は持っていないかもしれません。


しかし、この著書は、
まるで今年2008年の天皇賞(秋)のことを暗示するかのように、
そのあとにこう続けています。





今週は、
「ダイワスカーレットに勝たれてしまっていいのでしょうか?」問題を2度にわたって取り上げてきました。


ではどうすればダイワスカーレットを負かすことができるのか。
今回はそこまで追究してみたいと思います。


そのヒントは
僕が「座右の書」のように思っている
後藤浩輝著「意外に大変」の中に書かれていました。


2001年産経大阪杯
あのテイエムオペラオーが4着に負けたレース。
「後藤がオペラオーを負けさせたレース」の解説で
彼は以下のように語っています。


(因みに、レースは、
 単勝1.3倍のテイエムオペラオーが絶好の中団外めを追走し3コーナーを迎えます。
 そこで、その直後につけていた後藤鞍上アドマイヤボスが外から被せるように競りかけるように交わしていき、テイエムオペラオーもそれに合わせて早めのスパート。
 直線半ばまで2頭のマッチレースかのようなバトルが繰り広げられますが、
 最後には2頭とも力尽き、
 漁夫の利とばかり大外から大穴トーホウドリームとエアシャカールがすっ飛んできて、大波乱となったものです。)


長くなりますが、以下とても興味深いので引用させてもらいます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

向こう正面あたりで「これはまずいことになった」と察知した。
ペースや位置取りがテイエムオペラオーにもってこいになっていたのである。
完全にテイエムオペラオー中心のレースが出来上がりつつあったのだ。
こうなれば、もはや誰もオペラオーにはかなわない。
なにも起こらないまま3コーナーを回り、そのまま4コーナーを回ったらあとはオペラオーの独壇場になってしまう。
別にほかの騎手を責めるつもりはないけれども、「どうしてみんなは見て見ぬふりをしてるんだろう」と思った。
自分のレースをしようと努力しているのはわかる。自分の馬の力を出し切ろうとしているのはわかる。
しかし、みんなは重大なことを忘れている。
自分の馬の100%とテイエムオペラオーの100%はどちらが上なのか。言うまでもない。
テイエムオペラオーは現役のどの馬よりも力が上だからこそ、前の年に恐るべき成績を叩き出せたのだ。
だから、もしこのままテイエムオペラオーに100%の力を出し切られたら、自分の馬が負けるのは決まり切ったこと。
だとするなら、その状況をぶち破るべく、なにか策を講じるしかないではないか。

<中略>

レースに出ている以上、自分が勝ちに行くのは当然のことだ。
ましてやチャンスのある馬に乗っていてそれをしなかったら、そちらのほうが問題だろう。
そのうえ、相手はあのテイエムオペラオーなのだ。「どうぞ楽な競馬をしてください」という乗り方をしていたら、自分の勝つチャンスが消滅してしまう相手なのである。
競馬は単なる能力検定ではないのだし、セパレートコースでタイムを競うものでもない。逃げ馬がいて追い込み馬がいて駆け引きを繰り広げる"レース"なのだから、僕はそれがテイエムオペラオーであろうとだれであろうと、ライバルだと定めた馬に勝つために全力を尽くす。ラフプレーをするとか、強引な競馬で競り潰すということではない。

<中略>

そうやって真っ向からぶつかっていくことを、「正々堂々」というのではないだろうか。

<中略>

僕ら騎手は、やはり勝たなければなんにもならない。勝利だけが評価になる。最終的な評価は勝利をつかんでこそ得られる。少なくとも僕はそう思っている。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

明日に続く



北京オリンピックの代表選考がかかった今年の全日本選手権で
石井慧が優勝し、代表に決定したとき。


マスコミは一斉に彼を叩いた。
ある意味"汚い柔道"だったからである。
形は悪くても、がむしゃらにポイントを取りに行き、
きちんと駆け引きをして、逃げ切るような戦術。


これは日本伝統の一本を取りに行く"柔道"ではないと、叩いたものだ。


しかし、北京オリンピックの後で、
マスコミが手のひらを返したのは誰もが知るところ。
バタバタと敗れる男子柔道日本代表を救ったヒーローとして、
今度は石井慧を称えた。


彼は言い放つ。
「一本を狙う日本伝統の柔道なんて、今は世界では通用しない。
 もう国際的な"JUDO"の時代が来ているんだ」と。


一方。


昨年3つのGⅠを勝ったダイワスカーレットだが、
評価は必ずしも高くなかった。
同じGⅠ3勝のアドマイヤムーンにダブルスコアをつけられて年度代表馬には選ばれなかった。


先行してすんなり押し切る勝ち方から、
ダイワスカーレットの勝つレースは何か面白みがない
という声もあって。


後方から強烈な末脚を繰り出す
ウオッカやベッラレイアのほうが多くのファンの心を掴んでいたように思う。


しかし、実績を残しているのは、圧倒的に
ダイワスカーレットの方だ。

10戦7勝。連対率100%。
ウオッカには3勝1敗。

ウオッカやディープスカイが綺麗でかっこいい差し切り勝ち=一本勝ちを狙っているのを尻目に、
とにかく勝つために、一番勝てる可能性が高い先行押切の競馬で、貪欲に勝ちに行く、
ある意味"汚い競馬"
それがダイワスカーレット。
1頭だけ、本当のガチンコ勝負をする馬である。



「その綺麗な勝ち方というのは本当に大事なものなのか?
 そのままでいいのか?
 それで勝てるものなら勝ってみろ」
 
"石井慧とダイワスカーレット"
この1人と1頭のヒールがそんな強いメッセージを発しているように感じる。


「強い馬が勝つのではなく、
 勝った馬が強いのだ」
という格言を思い出す。




大嫌い 大嫌い 大嫌い 大好き!



という歌があった。たしかモーニング娘。の曲。


僕はダイワスカーレットが、
大嫌いで大嫌いで大嫌いだが、

大好きだ。



ダイワスカーレットは去年3つものGⅠを勝ったが、

その3つのレースのすべてで

僕は全く感動を覚えなかった。


スルっと行って、スルっと逃げ切るだけなんですもの。

何にも面白みないじゃないですか。


すごい大逃げをうつわけでもない。

壮絶な叩き合いを繰り広げるわけでもない。

盛り上がりどころのない完勝であって、

入線後には虚脱感だけが残る。



僕がダイワスカーレットを大嫌いな理由である。




でも、ダイワスカーレットは何も悪くないはずだ。

安藤勝己は、この馬が一番力を出せるように、操っているだけだ。

変な大逃げ打ったり、差しに回ったりしたら、それこそヤラズだろう。



悪いのはひとえに、

ダイワスカーレット以外の馬たちだ。

あるいはその鞍上なのかもしれない。


桜花賞の一度ならまだしも、

同じ過ちを3度繰り返すこともないだろう。

強いのはわかっているんだから、

勝ちたいのなら何かやることがあるだろう。


2、3着でもいいと思っているのかもしれない。

僕はそれでは、日本競馬が盛り上がっていくとはどうしても思えない。

GⅠレースではみんなが勝ちたいと思っていちかばちかでもいいから、勝負をかけるものであって欲しい。これは僕だけの個人的な願望なんだろうか・・


ダイワスカーレットは問いかけている。

このままでいいんですか?と。

逃げ切っちゃいますけど、いいんですか?と。

誰かかかってきやがれよ!と。


僕がダイワスカーレットを大好きな理由である。


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