実はこのレースの馬券は買っていない。買いたい馬券の配当が安すぎると感じたからで、好配当馬券、例えばゴールドシップに2着付けを探すということもしたくなかったからだ。

今から20年ほど前になるが血統研究家の武市銀冶郎氏は次のように書いた。

私は少年時代に各種の馬を育成し、その後世界の名馬を比較検証した結果、「聡明、優美、機敏、柔軟、繊細（優先順）」というサラブレッドの理想像を持つに至った。このような私の描く芸術品を生産することが血統研究者としての夢であった。1990年暮れの3歳戦（当時、現2歳戦）を勝利し名馬の片鱗をのぞかせたトウカイテイオーをテレビで見たとき、これが私の描いていたサラブレッドの理想像だと確信した。私はある友人に次のように言った。「私が30年以上追い求めてきた究極のサラブレッドが登場した。究極のサラブレッドの第一の要件は聡明さである。彼は3歳の若さにもかかわらず自分の頭でレースをし、ゴール板をトップで通過した後、“オレは勝ったぞ”という気持ちを全身に現し、第2コーナー先で停止してから遠くのスタンドに向かって“勝ち誇ったノーブル”な顔をした。首を使っての柔軟な流れるような走法は、恐らく故障することもないだろう」と。しかし、ダービー後に故障してしまい私の予測は半分は外れてしまったが、故障を克服して一年ごとに出走したジャパンＣと有馬記念を奇跡的に優勝した名馬だった。
私はトウカイテイオーが故障を克服し二度の長期ブランク後のＧⅠを勝つことができたのは、彼の聡明な頭脳によるものであることを確信している。
サラブレッドは、一般に他種に比して、聡明であるが、肉体的あるいは精神的に不健康なものが多く、“逞しさに欠ける”ことが大きな欠点である。
それはサラブレッドが、競走と繁殖といの二段階の淘汰によって生き残ったエリートによる近親交配の産物であったことからする当然の帰結である。」

オルフェーヴルは武市氏のサラブレッドの理想像から相当遠い存在だが、ゴールドシップはかなり近い存在と言えるだろう。

一方、私はゴールドシップにステイヤーとしての理想像をみる。ゴールドシップのようにスタートダッシュが効かず前半は後方に位置せざるを得ないが、徐々にスピードアップを図り、中盤から後半に向けてロングスパートをかけることができるのがステイヤーの本質であって、長距離の逃げ馬や最後方から直線だけのスパートで勝ったディープインパクトはステイヤーの走りとはいえない。

今年の天皇賞(春)は見逃せない世紀の一戦（表現が古いが）といえるだろう。
願わくば、テンポイントとトウショウボーイの一騎打ちのときのように、序盤からデッドヒートを演じ、2頭だけが他の馬とは別の競馬をしたというようなレースをしてもらいたい。
2頭だけ他馬より１００ｍ長く走ったとしても構わないではないか。

03/18 13:33　回顧アクセス：2639