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マイルから中距離で見事な逃走劇を披露し続けたシルポート。
引退に寄せて、能力の本質とベスト騎乗を解説させていただきます。
●能力の本質
1.テンの早いレースは苦手?
いつも大逃げを打ち、場内を沸かせるシルポート。
テンからガリガリ飛ばしていくようなイメージがありますが、それはシルポートのスタイルではありません。
実は、シルポートはテンの早いレースが苦手なのです。
少しデータを並べて説明します。
シルポートが重賞で馬券に絡んだレースは、全部で7レース。
その7レースのテンのタイムを平均すると、約35.3秒。
シルポートが重賞で2桁着順に敗れたレースは、全部で12レース。
その12レースのテンのタイムを平均すると、約34.4秒。
好走したレースのテンに比べ、大敗したレースのテンは1秒近くも早いのです。
大逃げの印象が強いシルポートですが、スタート直後から速く走ってしまうとパフォーマンスを落としてしまうことが分かっていただけると思います。
2.中盤を厳しくして他馬を淘汰
テンは緩い方が良いシルポートですが、スローが得意な訳ではありません。
事実、ドスローの上がり勝負となった2011年の毎日王冠では8着に敗れています。
では、シルポートはどんなレースが得意なのでしょうか。
圧勝したレースや高指数のレースを参考に、探ってみたいと思います。
圧勝したレース:都大路S
12.7 - 11.2 - 11.3 - 11.7 - 11.6 - 11.0 - 11.0 - 11.9 - 12.4
後続に大きくセーフティリードを取ることが出来た利はもちろんありますが、ホクトスルタンにマークされたこともあり、ペースが全く緩まないまま直線へ向かいました。
特筆すべきはラストからの4F~3F目。
ここで「11.0 - 11.0」という高速ラップを刻んでいます。
ラストは「12.4」と失速してしまいましたが、結果は付いてきたホクトスルタンを潰しての圧勝となりました。
高指数のレース:2011年マイラーズC
12.4 - 11.0 - 11.6 - 11.6 - 11.4 - 10.9 - 11.5 - 11.9
逃げるのに少し脚を使ってしまいましたが、2番手のクレバートウショウが控えての単騎逃げ。
中盤ではリードを広げ、4コーナーでは真っ先に仕掛けての「10.9」。
一見無謀にも見える11秒を切るラップを刻みながらも、ラストは後続に並ばせず完勝。
高指数のレース:2012年中山記念
12.8 - 11.8 - 11.4 - 11.4 - 11.3 - 11.6 - 11.8 - 12.0 - 13.2
内有利な馬場状態ではありましたが、中盤3Fは上がり3Fに比べて2.7秒も早く、かなりのペースで引っ張っていたことが分かります。
このレースで松岡騎手は、「スタート直後はなるべく押さずに、コーナーに進入してからペースアップする」という戦法を取りました。
ラスト5F目から失速していくラップとなりましたが、後続に対するマージンを活かしきり、持続力で劣る他馬を失速させて2着に粘りこみました。
この3レースに共通するのが、「中盤が早く、レース後半の最速地点がラスト5F~3Fにある」ということ。
普通なら、レース後半の最速地点はラスト2F目になります。
折り合い至上主義の騎手が増した近年は特にその傾向が強いと言えますが、シルポートの好走レースはそういったレースとは全く異なるものですね。
テンで楽をしようがしまいが、中盤を厳しくして早めの仕掛けで粘りこむ。
後続は下手に付いて行けば潰され、脚を溜めすぎると届かない。
脚を溜めずに使っていっても、差を詰めるのにスタミナを消耗し、ラストはシルポートと脚色が同じになってしまう。
シルポートが失速した分だけ、他馬も失速する。
そんな競馬をするのがシルポートのスタイルであり、真骨頂だったと言えるのではないでしょうか。
●ベスト騎乗
前述したように、個性的な能力を持つシルポート。
そんな個性派の能力を、全開にさせた騎乗を挙げてみます。
挙げる上で大前提としておきたいのが、テンで無理をしていないこと。
テンのスピードはむしろ弱点ともいえるので、必要以上にスタートから飛ばしたレース(宝塚記念、秋天など)はむしろワースト騎乗と判断します。
小牧騎手による4勝はどれも捨てがたいのですが、ここでは、2013年中山記念の松岡騎手をベスト騎乗とさせていただきます。
2012年中山記念では、テン乗りながらシルポートの特徴を見事に活かして好走。
2013年中山記念でも、素晴らしい騎乗を披露しました。
良い点を少し紹介したいと思います。
まず、5枠9番にも関わらず、テンでほとんど押さなかったこと。
それによって、少し膨れる形で1コーナーに進入することになりましたが、位置を取ることよりもシルポートの資質を最大限活かすことを優先したファインプレーとも言えるでしょう。
また、意図しない恩恵として、他馬を外に膨らせて大きくロスさせることができました。
そして、コーナーに入ると2012年と同じくペースアップさせていきました。
中盤では11秒前半のラップを刻み、ラストは「13.3」の大失速。
最後の最後で大きく失速してしまったのですから、騎乗ミスにも見えます。
ですが、シルポートの衰えを考慮すると、仕方の無いところでもあるでしょう。
何より、今までに1度しか騎乗したことのない松岡騎手が、馬場や枠の恩恵の無い中スタイルを貫いたのは素晴らしいことです。
その頭脳と勇気に、拍手を送りたいと思います。
●最後に
「能力の本質」で、テンから飛ばすのはシルポートのスタイルではないと書きましたが、他陣営に大逃げを印象付けて、次走以降の絡んでくる馬を減らすという意味では作戦の内だったのかもしれませんね。
「大差負けさえも、次走への布石」
そんな風に考えると、シルポートの一戦一戦をより魅力的に感じることが出来ますね。
12/15 17:37 回顧アクセス:1532 |